2022年度特別コラム

「具現する未来」

参考文献「2030年 すべてが加速する世界に備えよ」

         ピーター ディアマンデス  著

           スティーブン コトラー  著

 

 

 

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  スカイドライブの空飛ぶ車

 

第一回

〈空飛ぶ車とコンバージェンス

 

亀を助けて竜宮城へ渡った浦島太郎が数年後に戻った故郷は、数百年の時が流れ全てが変わり果てた未来の世界でした。現在、この古代のおとぎ話は現実となりつつあります。もしも数年間を無人島で過ごした人が都市に戻ったら、そこはもう未来の世界。

空飛ぶ車と言えば、「ブレードランナー」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のような前世紀の映画で目にした未来の乗り物ですが、21世紀の今も、私たちに乗ることができるのは飛行機とヘリコプターだけです。昔のSFに描かれていた「あの未来はどうなった?」と首を傾げていた人も少なくないでしょう。しかし、「現実はこんなもの」と思っていた私たちに、2018年、ウーバーの最高製品責任者ジェフ・ホールディングは「空のライドシェア」が2023年にダラスとロサンゼルスで完全に事業化されると予告したのでした。  

空飛ぶ車の配車サービスが広まれば、将来的に車の保有と使用は経済的に見合わないものになると言います。なぜなら、車には購入費の他にガソリン、修理、保険、駐車場代など一旅客マイルあたり五九セントかかりますが、空飛ぶ車の配車サービスは一マイルあたり四四セントになるからです。 

SF映画の世界は、間もなくあらゆる分野で急速に現実化し始めます。  

コンピュータの集積回路上にあるトランジスタの数が一年半ごとに倍増することを「ムーアの法則」と言いますが、その結果、指数関数的に性能は上がり、価格は下がります。現代のスマホは1970年代のスーパーコンピューターに比べ、大きさは一万分の一、価格は 千分の一、性能は百万倍です。また、テクノロジーのデジタル化・プログラム化は「収穫加速の法則」を呼び込み、進化の速度を加速します。

しかし、それだけではありません。量子コンピュータ、AI、ロボティクス、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、材料科学、ネットワーク、センサー、3Dプリンティング、AR、VR、ブロックチェーン、これらの指数関数的な進化の波がコンバージェンス[融合]し合う今、既存の市場を破壊するテクノロジーが具現すると予測されるのです。

ウェイモの自動運転配車サービスで車を運転・所有する人はいなくなり、イーロン・マスク出資の真空列車ハイパーループにより数時間かかる都市移動は数十分になり、スペース✕のロケットで大陸間の通勤通学さえ可能となる、そんな未来がもう目の前に・・・。

 

 

 

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 日本IBMの量子コンピュータ

 

〈指数関数的進化の6つのステージ

 

パソコンやスマホなどのコンピュータは情報を「1」か「0」の二通りの状態で表す「ビット」を最小単位とし、指数関数的に進化してきました。しかし、集積回路を小さくしながら千億倍も能力アップしてきたこの仕組みを、大きく乗り越えていくと言われる技術があります。量子コンピュータです。これは、情報を「1」でもあり「0」でもあり得る重ね合わせ状態の量子ビットで表します。チェスの世界王者を破ったコンピュータが一秒に二億手検討できたのに対し、量子コンピュータは一秒に一兆手以上検討できます。これにより新たな材料、化学物質、医薬品発見の黄金時代が到来し、人工知能、セキュリティ、システムは想像を超えた発展をします。

こうして2030年には、ドラえもんの道具が日用品になるような社会が訪れるかもしれません。そんな未来を具現する量子コンピュータなどの技術をエクスポネンシャル・テクノロジーと言います。指数関数的に発展するこうした技術には、「デジタル化」「潜行」「破壊」「非収益化」「非物質化」「大衆化」六つのステージがあるそうです。

まず、ベースとなるのは「デジタル化」、つまり技術のコンピュータ化です。デジタル化した技術も、初期の進歩はゆっくりしていてあまり期待に答えてくれず「潜行」の段階にあります。しかし、二倍二倍と進化を続ける結果、突如として既存の製品・サービス・市場・産業を「破壊」する段階に移ります。そして、オンライン通話のように、今までかかっていたコストが消える「非収益化」、家電話やテレビやカメラやゲーム機がスマホ一つに集約されたように、製品や商店が不要になる「非物質化」、それが貧富の差なく全ての人に共有されていく「大衆化」へ進んでいきます。

例えば、人工知能の研究はこれまでも二度ブームになりながら、実用性は示せませんでした。ところが、2010年代に機械学習・ニューラルネットといった手法を使いインターネット上で学習するAIが登場すると、それは一気に「見る」「聞く」「読む」「書く」「知識の統合」といった能力で人間に匹敵、あるいは人間を凌駕するようになりました。現在、文学賞の最終選考に残ったり、囲碁の世界王者に勝ったりするようなAIを、スマホを通して誰もが利用できる状態に達しています。

高額な電信から、地球を覆う衛星使用の低額な高速通信網へ発展したネットワーク。センサー。ロボティックス。技術の破壊的進化は止まりません。

 

 

 

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 3Ⅾプリンター製の家

 

デジタル技術の現在〉

 

2022年2月24日、ロシアによる隣国ウクライナへの侵攻が始まりました。通信インフラが破壊される危機に瀕したウクライナのフョードロフ副首相は、ツイッターでスペース✕社のイーロン・マスク氏に同社の衛星を用いたネットワークサービス「スターリンク」の提供を依頼しました。するとわずか十時間後、サービスは始まりました。 

地球低軌道に浮かぶ数千機の衛星により、通信インフラのない離島や山間部に余すところなくネットワークを張り巡らそうとしているのはスペース✕社だけではありません。アマゾン社の進める「プロジェクト・クイパー」やソフトバンク社も出資している「ワンウェブ」が競って衛星を打ち上げています。

こうして地球は着々とインターネットに覆われてきていますが、ネットーワークを人間の神経系に喩えるなら、人間の五感に該当するのはセンサーです。フィンランド人ラーテラの考案した「オーラリンク」というチタン製指輪は毎秒250回人々の血流を測れます。自動車、スマホ、ドローン、衛星のカメラは今、二四時間世界を見つめています。やがてナノマシーンが人体内の情報も収集するようになるでしょう。

更に、センサーで得られたデータはロボティックス技術の担う運動にフィードバックされます。2011年の福島原発事故以降、人間の代わりに作業出来るロボットの開発が世界中で進展しました。いずれ不眠不休で作業する労働力が誕生し、ドローンが世界中にモノを配達してくれるようになります。

デジタル技術の進化は人間の生存空間の拡張もしています。仮想現実【XR】はスマホベースの低価格なサービスが既に大衆化し、視覚だけでなく聴覚や触覚、臭覚や味覚まで再現し、リアルとは別の生活の場が生まれつつあります。拡張現実【AR】も、任天堂の「ポケモンGO」で破壊的段階に到達しました。まもなく、誰もがスマートグラスで建物や風景の解説を見ながら街を歩くのが当たり前となるでしょう。

材料科学やバイオテクノロジーの発展は、全ての物質を元素の組み合わせから作り出す力を人間にもたらそうとしています。3Dプリンターは既に義手や義足、戸建ての家、高層マンションも作るようになりました。移植用臓器の生産さえ一般化するようになるでしょう。遺伝子治療はDNAの編集によりあらゆる疾病を防ぎ、幹細胞治療はあらゆる欠損を補います。人は死ねない動物になるのかもしれません。

 

 

 

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 クラウドファンディング

 

第四回

〈7つの推進力〉

 

ドラえもんはいつ誕生するのか?デジタル技術が指数関数的加速度で成長し、各分野の技術が融合することで「未来の世界」の実現は非常にリアルになってきましたが、この変化は七つの推進力によって増幅されています。

一つ目は、テクノロジーの生み出した「時間の節約」という推進力です。鉄道や飛行機は他の町や国へ移動する時間を、検索エンジンは図書館へ行く時間を、オンラインショッピングやチケット予約は店舗に行く時間を削ります。この百年で人々が家事に要する時間は週58時間から週1時間半に減りました。浮いた時間でイノベーターは試行錯誤する時間に余裕ができ、イノベーションが生まれやすくなるのです。

イノベーションには資金も必要です。クラウドファンディングは、誰でもアイディアを専門サイトに投稿し、実現のための資金拠出をネットにつながる数十億の人々へ求めることを可能にしました。スマホさえあれば銀行の審査も株式上場も通さずに、商品やサービスへ投資ができます。また、従来のベンチャーキャピタルに加え、新規仮想通貨公開による資金調達、SWFと呼ばれる政府系投資ファンド、孫正義氏によるビジョンファンドなど、新たな投資制度が新たなテクノロジーに「潤沢な資金」という推進力を与えています。

「非収益化」も推進力の一つです。かつて人ひとりのゲノム解析には9か月の時間と1億ドルのコストがかかっていましたが、現在は1時間の作業と100ドルのコストで可能です。数十年前のスーパーコンピューターはスマホとなって世界中の人のポケットに収まり、電力、教育、製造、輸送、通信、保険が低コスト化、無コスト化しています。より多くの人がイノベーションに参加可能となれば、変化の加速も増すのです。 

それは、人材の中から「天才」を発掘しやすくなるという推進力も生み出します。更に、デジタル技術は脳の機能向上や障害の克服を可能とするため、発掘だけでなく、「天才の製造」さえ可能になるかもしれません。

他にも、ネットワークの拡大に伴う潤沢なコミュニケーションや、メタバースなどの「新たなビジネスモデル」も推進力の一つです。しかし、より強烈な印象を与える推進力は「寿命を延ばす」でしょう。老化細胞の修復、若い血液の輸血、幹細胞による自己再生で、人々の寿命は伸び、優秀な人材がイノベーションに費やす時間を延長すれば、世界の加速も進むというわけです。

 

 

 

 仮想空間でお買い物。AmazonのVRショッピング空間がインドでお披露目 | ギズモード・ジャパン

  AmazonVRショッピング空間

 

第五回

〈買い物と広告〉

 

1887年、全52ページに時計や宝飾品が掲載された通信販売カタログ「シアーズ・カタログ」が登場しました。アメリカの農村部で好評を得たこのカタログ販売は、アメリカ郵政公社の誕生、テキサスの石油、自動車の登場というテクノロジーを味方にして、地方の小売り業者を圧倒、やがて1200ページに10万点の商品を載せ、全米消費の1%を占めるまでに至りました。しかし、2013年、シアーズは破綻し、小売業界は、デジタルテクノロジーにより顧客の需要を把握して販売するウォルマートが席巻することになります。そして、現在はEコマースの雄アマゾンが、ネット接続人口の増大と歩を合わせてウォルマートを圧倒しています。

小売業界の革命は現在も進行中です。現代の消費者は、AIによるデジタルアシスタントにより、シアーズの分厚いカタログやウォルマートの広大な敷地から好みの商品を探し出す労力を払わず、欲しいものが購入できます。アマゾンの「アレクサ」、グーグルの「グーグル・ナウ」、アップルの「シリ」、アリババの「Tモール・ジニー」に呼びかければ、自分が必要とする商品を提示してくれます。AIは、「グーグル自動予約システム」のように自分の代わりに美容院に予約を入れたり、逆にソウルマシーンズのアバターのように店員の代わりに顧客対応をしたり、更にはAI同士で商取引を済ませてくれるようになるかもしれません。

また、「アマゾン・ゴー」のようにレジに並ぶことなく、まるで万引きするように店から商品を持ち出す買い物が普通になり、レジ係はやがていなくなると考えられています。店の商品補充もセンサーとAIが自動で済ませてくれるので、そこにも人員は不要になります。しかも、商品の生産は3Dプリンターが、配送はドローンが担う日も遠くありません。

ARメガネをかけて店に入れば、気になる商品に目を向けるとその詳しい情報が表示され、質問があればもちろんAIが答えてくれます。更に、VRメガネを装着すれば、店に行く必要もなくなります。自宅にいながらVR空間で服の試着ができ、注文すると自分にぴったりサイズの服が届くのです。

広告も不要になるかもしれません。あなたに必要が生じた時点でAIがニーズに合った商品を自動的にそろえるため、あなたはもう購買活動に関わらなくなるかもしれないからです。

 

 

 

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  VR空間の授業

 

第六回

〈エンタメと教育〉

 

映画・ドラマのストリーミングで覇者となったネットフリックスは、1999年にDVDのネットレンタルを送料・手数料・延滞料ゼロにしたことで成長を開始しました。次に2007年からサービスをストリーミングに転換して会員数を大幅に増やし、オリジナル作品の制作にも成功、全世界に二億人以上の会員を持つ、現代のエンターテインメント界を牽引する企業となりました。

これにアマゾンやフールーなどの動画配信サービスが追随し、その中でも個人が配信できて無料で視聴できるユーチューブはテレビを圧倒するメディアとなってきました。一般の配信者が個人で数十万、数百万の登録者を獲得し、低コストで大金を稼ぐ今の状況は、テクノロジーの非収益化と大衆化の最たる例と言えるでしょう。

今後は、AIとクラウドが更なる変化をもたらします。コンテンツの自動作成・共同作成です。既にAIが映画の脚本を書いたり、ゲームの内容をプレイヤーの好みに合わせて作り変えたりすることは始まっていますが、クラウド上に集まる人々の趣味嗜好のビッグデータと私たち自身の感情や感覚をも読み取るAIが、今日のあなたが求める動画作品を作って配信してくれるようになるかもしれません。

また、ディープフェイクといった技術によって、あなたのダンス動画を一流ダンサーのそれのように加工してくれたり、この世にない俳優や歴史上の人物を復活させて新作を作ったりということも可能になります。あなた自身のコピーを作るリアル・フェイク技術は、あなたのコピーをどこか知らないメディアに出演させるかもしれません。

エンタメを支えるテクノロジーは、教育にも適用されます。例えば、優れた教師のリアル・フェイクが様々な生徒の家庭教師を務める、といったことも考えられます。その先生はホロデッキによって生徒の目の前に現れるかもしれないし、スクリーンになった部屋の壁に現れるかもしれません。頭にゴーグルを付けてVR空間で授業を受ける試みなら既に始まっています。ゴーグルはさらに薄くなり、コンタクトレンズとなっていくでしょう。もっと先の未来では、脳に直接刺激を与えるブレイン・コンピューター・インターフェースで脳の中が教室になるかもしれません。

これらの技術は、大量生産型の画一的教育を終わらせ、生徒各自のペースで、自分の興味に沿って学習することを可能にします。ARレンズを付けて街を歩けば、街そのものが教室になり、教科書になり、先生になるでしょう。

 

 

 

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 マーティン・ロスブラット

 

第七回

〈消える病気と老い〉

 

  マーティーン・ロスブラットは大学を中退後、世界放浪中に見たNASAの追跡システムからアイディアを得て一から宇宙工学の勉強を始め、大学院で法律と経営の学位を取得、宇宙法の専門家となって宇宙関連の通信事業に従事し、世界初のグローバル衛星ラジオネットワークを立ち上げます。

でも、物語はそれで終わりではありません。トランスジェンダーであることを家族に告げ、手術により彼が彼女に変わった後のことでした。長女が難病である肺高血圧症を発病したのです。そこでマーティーンは、患者が例外なく命を落としていたこの病気の薬を開発するため、医学を高校生物段階から学び始め、化学者たちが不可能だと言っていた治療薬の開発を実現、娘が息を引き取る寸前に、その命を救いました。

しかし、彼女の薬は今でも数万人の症状を抑えているとはいえ、完治させるものではありませんでした。完治のために必要なのは肺移植です。彼女の次の事業は、移植可能な臓器を無尽蔵に供給するサービスへと変わります。まず、死亡する人の肺が有害物質を多く含んでいる問題に対処し、「体外肺灌流」という技法で数千人の命を救いました。更に、人間に近い豚の臓器を利用するためその遺伝子地図を描き、ゲノム編集技術でクリーンな豚をつくりました。目下のところは人体内部で臓器の拒絶反応を引き起こす遺伝子の封じ込めに取り組んでいます。また、動物の命を奪わずコラーゲンを使って人工肺の足場を3Dプリンティングし、幹細胞によりそれを生きた肺にする実験も進めており、加えて、スピーディに患者に臓器を届けるための空飛ぶ電気自動車の開発も行っています。

彼女のバイタリティは特別なものにも感じられますが、人類の努力は確実に治らぬ病気の無い世界に向かい、テクノロジーのコンバージェンスは進んでいます。モバイル機器によるヘルスケアで誰もが常時人間ドックにいる状態となり、遺伝子治療、ロボット外科手術、細胞医療、AIによる新薬開発により、富裕層だけでなく大衆的に、病気や怪我は消滅するかもしれません。

人は、ゲノムの不安定性や染色体内のテロメアの短縮、タンパク質恒常性の喪失、ミトコンドリア機能障害、細胞の劣化、幹細胞の枯渇といった老化の原因にも対峙しています。若い血漿を取り入れるといったドラキュラじみた技術も含め、アンチエイジングのテクノロジーは死の消滅を目指しています。

 

 

 

第八回

 

 

 

第九回

 

 

 

第十回

 

 

 

 第十一回

 

 

 

 第十二回