2013年度特別コラム「哲人の記」

 

 

Jゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル

 

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一人の人間が生まれ出る。彼の意識には無数の色や音や臭い触感が現れる。そこに「物」が確かにある、と意識は思う。しかし、目の前の「物」は、私が後ろを向けば姿を消してしまう。でも、意識は継続してある。確かにあるのは私(意識)の方、と意識は思う。この「物」と意識の対立は、目の前の「物」が、継続する意識の中に継続して現れることで「それがある」という確かな「事」となって統一される。これが知覚だ。

やがて彼は言葉と概念を身につける。そして、目の前にある「物」が、例えば「机」であることを知る。その「机」は、「固く」「重く」「茶色い」という様に、概念的に意識へ認識される。それは、この「机」がそれらの性質を本質として持つことを意味する。更にその「机」は、ただ知覚する個人の意識にのみあるのではなく、彼が言葉と概念を通してつながっている人類の精神ネットワークに認識され、現れ出たものでもある。こうしてこの「机」は、人類の精神世界で客観的普遍的に存在することになる。この意識の働きを悟性という。

彼の意識は様々なものの認識の後に自分自身を対象として意識するようになる。この自己意識(自我)は、自己内部の欲望を実現しようとするが、自然はそれを簡単には許してくれないため対立する。また、彼と同じ他の人間たちも、彼と同様に欲望を持ち、双方の自己意識は互いの欲望実現のために対立する。だが、欲望の勝利には限界がある。自己意識は自然や社会の壁に突き当たることで、その法則や制度を内部に受け入れ、これに従う理性となる。

こうして理性は、人間精神のネットワーク上にある制度や道徳に従うことにしたわけだが、これは一方にある自己意識の欲望としばしば対立する。つまり、道徳と幸福が矛盾する。また、ある社会の制度や道徳は別の制度や道徳と対立することもある。ここに理性は絶対命令としての道徳を越え、理想を行動によって現実化し、同時に他者の承認も得ようとする「良心」へと発展する。

18世紀末、西洋で発展した合理主義はフランス革命へ結実しながら、恐怖政治やナポレオンの独裁へと挫折した。そんな激動の時代に登場したヘーゲルは、「正」と「反」の対立が「合」として発展を生むという弁証法的な精神発展の歴史と、個人の意識が、人類の精神ネットワークであると共に世界が実在する場である「絶対精神」と一体化することを目指す哲学を説いた。

彼をもって古代ギリシャ以来の西洋哲学は体系的な完成を迎えることになる。

 

 

 

 目次

@ ソクラテス

A プラトン

B アリストテレス

C ゴータマ・シッダールタ

D 孔丘仲尼

E 荘周

F パウロ

G デカルト

H パスカル

I カント

J ヘーゲル

K ニーチェ